ピッチデックの作り方と構成は?|VCに伝わる魅せ方と準備ポイント

スタートアップが資金調達を行う際、最初の関門となるのが「ピッチデック(Pitch Deck)」です。

ピッチデックとは、投資家に対して自社の事業内容やビジョン、成長戦略を簡潔に伝えるためのスライド資料のこと。限られた枚数・短い時間の中で、いかに相手の関心を引き、次の面談へとつなげるかが問われます。

投資家の多くは、1日に何十社ものピッチデックを目にすることも少なくありません。その中で、「もう少し詳しく話を聞きたい」と思ってもらえるかどうかは、ピッチデックの構成力と表現力にかかっています。

つまり、ピッチデックは単なる“資料”ではなく、自社の強みやビジョンを伝える「ストーリーテリングの武器」であり、同時に、事業の構想や戦略を自分たちの頭の中で整理・言語化するための“経営の設計図”でもあります。

本記事では、投資家に”伝わる”ピッチデックの構成要素と、その魅せ方の工夫、さらにはよくある失敗例まで、実務に役立つ観点で解説していきます。

目次

ピッチには種類がある|目的に応じた伝え方の違い

ひとことで「ピッチ」といっても、その場の目的や聞き手によって求められる構成や情報量は大きく異なります。ピッチデックを準備するうえでまず押さえておきたいのは、「どんなシーンで、誰に対して、どれくらいの時間で伝えるのか」という前提条件です。

スタートアップのピッチには、主に以下の3つのタイプがあります。

エレベーターピッチ(1分以内)

短時間で印象を残す“自己紹介”のような位置づけ。アクセラレータの面談やイベントでの立ち話など、偶発的な出会いでの使用を想定します。

  • 目的: 興味を引くこと(詳細説明ではなく“次につなげる”ための魅力づけ)
  • 含める要素: 一言で伝わる課題と解決策/市場の可能性/代表者の熱量

ライトピッチ(5〜10分)

スタートアップイベントやデモデイでよく使われる形式。聞き手に概要を理解してもらい、関心を持ってもらうための「導入」的なピッチです。

  • 目的: 概要理解と「一度話を聞いてみたい」と思わせること
  • 含める要素: 課題、解決策、市場規模、簡単な実績などの要点

VC面談ピッチ(20〜30分)

ベンチャーキャピタル(VC)などの投資家との資金調達を前提とした面談では、30分程度でのピッチが一般的です。この時間枠では、表面的な魅力だけでなく、戦略や根拠、実行力までを納得感のある形で伝える必要があります。

  • 目的: 出資検討に値するかどうかの判断材料を提供すること
  • 含める要素: 課題、解決策、市場、競合、ビジネスモデル、KPI、財務、資本政策、チーム、資金使途など

本記事では、上記の中でもVC向け30分ピッチに特化し、プレシード〜シリーズAフェーズのスタートアップが「今どの段階で、何をどの深さまで伝えるべきか」を意識したピッチデックの構成と魅せ方について解説していきます。

ピッチデックとは? その役割と目的

ピッチデックとは、主にスタートアップが資金調達の場面で投資家に提示するプレゼン資料です。

PDF形式のスライドで10〜20枚程度にまとめられるのが一般的で、自社の事業概要や課題設定、市場性、ビジネスモデル、将来の成長可能性を「短く・分かりやすく」伝えることが求められます。

目的は「面談のきっかけをつくる」こと

ピッチデックのゴールは、いきなり投資判断をしてもらうことではなく、「この会社は面白そうだ」「もう少し詳しく話を聞きたい」と思ってもらうことにあります。いわば、“興味を持たせるための第一印象ツール”です。

そのため、以下の2つの視点を両立させる必要があります。

  • ビジョンや熱意を伝えるストーリー性
  • ビジネスとしての合理性や実現可能性

特にプレシードやシードの段階では、プロダクトが未完成でも「市場仮説」や「チームの実行力」が伝わるかどうかが重視されるため、ピッチデックの役割はより重要になります。

フェーズが進むほど、ピッチに求められる情報は深まる

ピッチデックに盛り込むべき要素は、調達フェーズや自社の成長ステージによって段階的に加わり、求められる情報の深度も増していきます。

たとえば、プレシード段階では「課題の設定」や「起業家の熱意」といった定性的な要素が中心ですが、フェーズが進むにつれて、「市場検証」「KPI」「収益性」など、より客観的で定量的な情報が必要になってきます。

調達フェーズ求められる/追加される情報の例
プレシード起業家の熱意・市場仮説・課題設定の明確さ
シードMVPの検証・初期顧客の反応・市場適合性
アーリーPMFの証明・KPIの推移・競合優位性の裏付け
グロース以降組織体制・財務指標・予実管理・イグジットの可能性(確度)

つまり、ピッチデックは「一度作って終わり」ではなく、フェーズごとに進化させる“生きた資料”として捉え、自社の成長とともにアップデートしていくことが不可欠です。

ピッチデックの基本構成(テンプレート)

ピッチデックは、伝えたい情報をいかに「短く、分かりやすく、説得力のある順番で」整理できるかが鍵になります。

ここでは、スタートアップの資金調達においてよく使われる標準的なスライド構成(テンプレート)を紹介します。

これはあくまでひとつのテンプレートであり、自社のステージやビジネスモデルに応じて調整して構いません。ただし、「何を伝えるか/何を省くか」は投資家視点で設計することが重要です。

ピッチデック構成の一般的な流れ

表紙(会社名・ロゴ・キャッチコピー)

第一印象を決めるスライド。印象的な一言で世界観を伝える。

問題提起(顧客の課題・市場の非効率)

なぜこの事業が必要か?「痛みのある課題」を明確に提示。

解決策(プロダクト/サービスの概要)

どのように課題を解決するのか。ソリューションの核を簡潔に。

市場規模と成長性(TAM/SAM/SOM)

投資家が最も注目するポイントのひとつ。事業がスケールする根拠を定量的に示す。

TAM/SAM/SOMとは?

ビジネスモデル(収益構造

どこで、どのようにマネタイズするか。課金ポイントや単価の考え方も含めて。

競合分析(競争優位性の説明)

既存プレイヤーとの違いを明示。マトリクスやポジショニングマップを使うと有効。

プロダクト紹介(画面UI・導入事例など)

実際のサービスイメージや導入実績があればビジュアルで伝える。

トラクション(KPIや実績データ)

売上・ユーザー数・LTVなど、事業の実行力を裏づける指標を簡潔に提示。

チーム紹介(経歴・役割・補完性)

なぜこのチームで成功できるのか。専門性や実績を含めて信頼性を示す。

資金調達の概要と使途

調達希望額、希望バリュエーション、資金の使い道(人材・開発・マーケティングなど)

資本政策の概略(必要に応じて)

現在と将来の株主構成、希薄化のシナリオ、ストックオプション設計など。特にシリーズA以降では、事業だけでなく資本設計の健全性やイグジットのイメージも重視されます。

スライド数と構成のヒント

全体のボリュームは10〜20枚程度が目安。読みやすさと情報密度のバランスが重要です。

初回送付用の資料は、「見せる前提」で作る(簡潔・ビジュアル重視)。詳細資料は別添可能。すべてを伝えようとせず、「最も伝えたいことが何か」を軸に構成することが効果的です。

伝わるピッチデックの魅せ方・構成の工夫

ピッチデックで伝えるべき情報が整理できたら、次に重要なのが「どう見せるか=魅せ方」です。

同じ情報でも、スライドの構成や表現の工夫次第で伝わり方は大きく変わります。

VCは日々多数のピッチを受けているため、“伝わるデック”かどうかで第一印象や理解度にも大きな差が生まれます。

ここでは、投資家との面談で内容を正しく・印象的に伝えるための構成と表現のポイントを紹介します。

「構成」における工夫

投資家の意思決定プロセスをなぞる構成にする

投資家がピッチを通じて確認したいのは、「何に、なぜ、いくら投資するか」です。その判断軸に沿ってスライドを並べると、論理的な流れになり、相手に負荷をかけずに伝えられます。

  1. この事業は、誰のどんな課題を解決するのか?
  2. その解決方法は、独自性や拡張性があるか?
  3. 市場の大きさ・成長性は?
  4. なぜこのチームで実現できるのか?
  5. その結果、どういうリターンが期待できるのか?

スライド1枚につき、伝えるメッセージは1つ

  • 情報を詰め込みすぎず、1スライド=1メッセージの原則で構成
  • 複数の要素がある場合は、スライドを分ける or 口頭で補足
  • スライドにすべてを載せる必要はない(資料で完結しない方が面談では効果的な場合もある)

「見せ場」をつくる

投資家に「おっ」と思わせるスライドを意図的に用意すると、ピッチ全体が記憶に残りやすくなります。

静的な情報が続く中で、強いメッセージやビジュアルを挿し込むことで、リズムが生まれ、印象に残りやすくなるためです。

見せ場の具体例
市場の可能性を象徴する数字

例:「2030年には5兆円市場に成長見込み」「年間〇万件の未解決課題がある」など

プロダクトの直感的なユースケースやデモ画面

実際の利用シーンやUIを見せると「イメージが湧いた」という反応につながる

起業の原体験エピソード

なぜこの課題に取り組むのか?への共感・納得を促す

顧客からの生の声や強い反応

初期ユーザーの「これがなかったら困る」などのコメントを載せると、リアルな需要が伝わる

成長カーブやトラクションのハイライト

グラフや数字で急成長を視覚的に示すことで、伸びしろを印象づける

明快なコンセプトワード/1行コピー

シンプルかつ強い言葉でビジョンを刻む

競合との差異を明確に示すポジショニング図

自社の立ち位置・勝ち筋が直感的に伝わる視覚表現

見せ場をつくることでスライドの構成に緩急がつき、30分ピッチの集中力も持続しやすくなります。

「デザイン・表現」における工夫

図やビジュアルを活用する

  • テキストだけでなく、図・グラフ・UIイメージなどの視覚情報を活用。
  • VCにとって「事業がどう機能するか」が直感的に伝わると理解と信頼が高まる。

スライドに余白をつくる

  • 詰め込みすぎたスライドは印象が弱くなる。
  • 情報量を抑えて、強調したい要素が目立つようにデザインするのがコツ。

自社らしさを伝えるトーンで

  • VCはスライドのトーンから「この会社の文化・世界観」も感じ取っています。
  • ロゴ・色・書体・言葉遣いも含めて、自社らしい雰囲気や熱量を反映させましょう。

ピッチ後のQ&Aを見据えた準備のポイント

ピッチデックがどれだけ完成度の高いものでも、VCとの面談で必ず訪れるのがQ&A(質疑応答)タイムです。
ここでの受け答えは、資料以上にスタートアップへの信頼を左右する重要な局面です。

質疑応答で問われる内容は、資料の深掘り・矛盾点・数値の裏付け・戦略の妥当性など多岐にわたります。あらかじめ想定し、補足資料や答えの準備をしておくことで、面談全体の印象を大きく改善できます。

よくあるQ&Aの質問例

以下は、プレシード〜シリーズAのピッチ後によく投げかけられる質問です。

  • この市場規模はどう試算しましたか?
  • 競合の最新動向はどう捉えていますか?
  • なぜこのタイミングでの参入が適切なのですか?
  • 顧客の獲得単価(CAC)とLTVの仮説はありますか?
  • このプロダクトが「本当に使われる」と言える根拠は?
  • チームの体制で、今後の成長に課題はありませんか?
  • 仮にこの戦略がうまくいかなかった場合の選択肢は?

補足資料(Appendix)の活用

ピッチデック本編では情報を絞り込む一方で、想定問答や追加情報を補足資料(Appendix)として準備しておくことが非常に有効です。

例としては以下のようなものが含まれます。

  • 市場データの出典元や詳細試算
  • ターゲットユーザーのペルソナ・調査結果
  • プロダクトロードマップ
  • 採用・組織計画
  • 財務シミュレーション
  • カスタマージャーニーや利用シーンの補足
  • KPI一覧や過去の改善施策など

※ 補足資料(Appendix)は「面談で問われたときに提示する」形式のため、本編とは別資料にしておく or デック末尾に控えておくのが一般的です。

利益計画表について

ピッチデックの構成上、財務数値を1枚にまとめて提示することはよくありますが、裏付けとなる5年程度の利益計画表は、あらかじめ用意しておくことをおすすめします。

これはプレシードからシリーズAまで共通して重要な資料であり、面談中の質問や投資判断の裏付けとして非常に重視されます。

※利益計画表の作り方については、別記事で解説予定です。

Q&Aは“試される時間”ではなく、“深掘る対話”の時間

ピッチのあとのQ&Aは、投資家が「揚げ足を取る」ためのものではなく、より深く理解し、納得して前向きな検討に進むための対話の場です。

だからこそ、想定外の質問に答えられなくても、正直かつ前向きな姿勢で応じることが信頼につながります。
準備と姿勢の両輪が、このフェーズの説得力を大きく左右します。

まとめ

ピッチデックは、単に事業を説明するだけの資料ではなく、スタートアップと投資家の信頼関係を築く最初の一歩です。

特にプレシード〜シリーズAのフェーズでは、事業の将来性・チームの信念・戦略の整合性を、限られた時間とスライド数の中でどう伝えるかが鍵となります。

本記事で紹介した構成案や魅せ方、Q&Aへの備えは、あくまでも「型」であり、「正解」ではありません。重要なのは、自社の文脈に合わせて取捨選択しながら、投資家の視点で再構成していくプロセスです。

ピッチデックづくりは「作って終わり」ではなく、「伝わるまで磨く」ものです。資金調達を前に、ぜひ本記事をチェックリストとして活用してください。

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