プレシード〜アーリー期の資金調達で揃えておきたい資料とは?
プレシード〜アーリー期の資金調達では、まだ売上やプロダクトの実績が十分に揃っていないため、投資家は「なぜこの課題に、なぜこのチームが、いま挑むのか」といったストーリーや将来性に注目します。
その判断材料として重要になるのが、ピッチデックや利益計画表など、事業の意図や可能性を伝える各種資料です。
これらは、投資家の関心を引き、面談など次のステップに進むうえで欠かせない要素の一つです。
この記事でわかること
本記事では、ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家などからの「エクイティ型資金調達」を前提として、 プレシード〜アーリー期の資金調達において、準備しておくとスムーズな実務資料とその作成ステップを解説していきます。
※「エクイティ型資金調達」とは、株式の発行や、将来的な株式転換を前提とする出資(例:J-KISSなど)を含む調達手段を指します。
資金調達に取り組む中で、次のような悩みに直面する起業家は少なくありません。
- 「事業がまだ形になっていなくても出資を受けられるのか?」
- 「何を、どこまで準備すればいいのか?」
- 「資料作成の順番に正解はあるのか?」
そんな起業家に向けて、本記事では、
- 資金調達に必要な主要資料の一覧
- 資料を作るおすすめの順番
- よくある失敗とアドバイス
をわかりやすく整理しています。
資金調達に挑む起業家が、自信を持って次の一歩を踏み出せるよう、実務に沿った視点でまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
資金調達に必要な主な資料一覧
プレシード〜アーリー期のスタートアップでは、まだ十分な売上や実績がないことも多いため、事業の可能性やチームの実行力を伝える「資料」が、投資判断における重要な根拠になります。
投資家のタイプ(VC/エンジェルなど)や資金調達フェーズによって、求められる資料や重視されるポイントは異なりますが、まず押さえておきたい基本的な資料があります。
ここでは、資金調達に向けて準備しておきたい主要な資料を、実務ベースで紹介します。
ピッチデック
ピッチデック(ピッチ資料)は最も基本かつ重要な資料です。事業の全体像を限られた時間で伝えるために、10〜20枚程度のスライドで構成されるのが一般的です。
- 解決しようとしている課題(Problem)
- 提供する解決策(Solution)
- 市場の大きさ・成長性(Market)
- プロダクトの概要(Product)
- ビジネスモデル
- チーム紹介
- 競合比較・優位性
- 実績・トラクション(ある場合)
- 今後の展望と資金の使い道
最初はスライドの「骨子」だけでも構いません。メッセージが一貫していることが大切です。
利益計画表(PL予測)
売上や費用などを見積もり、事業の収支見通しを示すための表で、ExcelやGoogleスプレッドシートで作成するのが一般的です。
プレシード段階であっても、どのような仮説に基づいて事業が成長していくのかを数字で示すことは、投資家との認識をすり合わせる上で有効です。
- 売上予測
- コスト構造(人件費、広告費などの主要コスト)
- KPI(LTV、CAC、チャーンレートなど)
事業の仮説や資金使途と整合性が取れており、現実的な根拠が感じられることが重要です。
資本政策案
資本政策案(いわゆるCap Table)は、出資を受けた際の持株比率や今後のラウンド設計を整理した資料です。投資家は、自身の取得株式数や希薄化の影響、創業チームの持株構成などを確認するため、この資料を重視します。
株主構成やストックオプション、調達後の資本比率の見通しなどを整理しておきましょう。
事業計画書
ピッチデックで伝えきれなかった背景や戦略を詳細に説明するための資料です。WordやPowerPointで作成されることも多く、形式は自由です。
- プロダクト開発やマーケ戦略の詳細
- 想定する市場・ターゲットの根拠
- 中長期の展望や出口戦略
投資家からの追加質問に備える資料としても使えるため、可能であれば用意しておくと安心です。
プロダクト資料・デモ
サービスのUIや動作イメージが分かる資料やデモ動画などが該当します。プロダクトが未完成でも、構想を伝えるツールとして役立ちます。
資料と役割の一覧表
資料名 | 主な役割 | 補足 |
---|---|---|
ピッチデック | 事業全体の構想とチームの強みを限られた時間で伝える | 資金調達の第一関門となる資料。内容の一貫性と説得力が前提となり、それを的確に伝えるためにデザインや構成にも配慮する。 |
利益計画表 | 事業のスケール感や資金使途の妥当性を数値で示す | 仮説と資金使途が筋の通った形で数字に落とし込まれているかが重視される。納得感と整合性が鍵。 |
資本政策案 | 出資後の株主構成やラウンド設計を可視化する | 投資家の持株比率や希薄化、SOプールなどが明示されていることで、調達後の見通しが立てやすくなる。 |
事業計画書 | ピッチ資料で触れきれない前提や戦略を補足する | 投資家からの追加質問対応のためにも備えておくと安心。提出を求められない場合もある。 |
プロダクト資料 | サービスの体験や提供価値を視覚的に伝える | MVPやモック、デモ動画などがあると説得力が増す。 |
資料を作るおすすめの順番
資金調達に必要な資料は複数ありますが、まず柱となるのはピッチデックと利益計画表の2つです。
重要なのは、全体のストーリーを早い段階で整理し、それに基づいて資料を肉付けしていくことです。
ここでは一例として、準備をスムーズに進めるためのおすすめの順番をご紹介します。
まずは事業の構想や方向性をスライド数枚で整理します。この段階では箇条書きでも構いません。
- 課題と解決策(Problem/Solution)
- 市場規模と「なぜ今か(Why now?)」
- プロダクト概要
- ビジネスモデルの概要
- チーム構成と強み
この段階では美しくデザインされたスライドである必要はありません。重要なのは、論理が一貫した「仮の全体像」を早く持つことです。
ピッチデックで描いたビジネスの流れを、数字で具体化していきます。
- どのKPI(顧客数、単価など)が成長ドライバーか
- 資金を何に使い、どのタイミングでスケールさせるのか
- ユニットエコノミクスは成立しそうか
この段階で整理した数字は、ピッチデックにおいて、今後の成長戦略や資金の使い道を説明する根拠としても活かされます。
Step 1で作った骨子と、Step 2で作った利益計画表の数字を組み合わせて、投資家向けのピッチデックに仕上げていきます。
必要に応じて、以下の要素等も追加します。
- 競合比較
- 顧客の声や検証結果
- スケール戦略や出口の見通し
内容の流れが固まったら、見やすさや伝わりやすさを意識して、スライドのデザインも整えていきましょう。
よくある失敗と回避策
資料を整える際に、特に初めて資金調達に挑む起業家が陥りやすいポイントがあります。ここでは、よくある失敗パターンとその回避策をセットで紹介します。
失敗例:最初から完成度にこだわりすぎて、手が止まる
完成された資料を一発で作ろうとして、手が止まってしまうことは少なくありません。
ですが、初期の段階ではラフな形でも構いません。まずは、事業の構想や仮説を言語化し、骨子としてまとめることが大切です。そこから何度も見直し、磨き上げながら、完成へと近づけていきます。
失敗例:「資料だけでは判断されない」と思っている
「会って話せばわかってもらえる」という認識は危険です。実際には、ピッチデックなどの資料だけで、面談の可否が判断されるケースがほとんどです。
特にベンチャーキャピタリストは、1日に何十件もの案件を見ることも少なくないため、資料単体で“このチームは会う価値がある”と思わせられるかが第一関門となります。
失敗例:数字が「盛られすぎている」・「根拠が示されていない」
投資家は、売上予測や市場規模を見るときに「この数字はどんな仮定に基づいているか?」を重視します。にもかかわらず、根拠が曖昧なまま大きな数字だけを並べてしまうと、資料全体の信頼性が疑われかねません。
まず大切なのは、前提となる仮説や計算根拠が示されていて、整合性があることです。
失敗例:スライド枚数は多いのに、要点が伝わらない
スライドの枚数だけが増え、肝心のメッセージが伝わってこない資料は少なくありません。
情報が詰め込まれすぎていたり、課題・解決策・市場・チーム・資金使途といった要素がバラバラに語られ、一貫したメッセージが伝わらないケースです。
「誰の、どんな課題に、どう挑むのか」という軸を中心に、事業の背景から成長戦略、資金の使い道までが一つの流れとしてつながる構成を意識しましょう。
まとめ
プレシード〜アーリー期の資金調達では、プロダクトや売上といった実績がまだ十分でないことも多いため、 戦略的に用意しておく資料が、事業の構想やチームの実行力を投資家に伝えるための鍵ともなります。
本記事では以下のポイントを整理してきました。
- 資金調達に向けて用意しておきたい主な資料とその役割
- スムーズに進めるための資料作成ステップ
- 起業家が陥りがちな失敗と対策
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ここまで読んでいただき、「頭では分かっても、いざ自分の事業に当てはめるのは難しい」と感じた方も多いかもしれません。
- 事業のどこをどう伝えるべきか分からない
- 投資家が重視するポイントが掴めていない気がする
- 準備が十分かどうか、誰かに壁打ちしてほしい
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